そんなに頻繁に映画を観るわけでも、ましてや映画通でもないのですが、これまで観た作品の中で記憶に残っているものや、いまだに心に引っかかっているものをご紹介したいと思います。


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Escalier C (邦題:「C階段」'85仏)
 

パリに住む、新進気鋭の”毒舌”美術評論家の心の移ろいを、彼の周囲の人物との関わりを描きながら辿っています。

昔観た時には、ドライかつ少し陰鬱な画で必ずしも楽しい作品ではないというくらい印象だったのですが、劇中、主人公がある画廊のルノワールの人物画を前にして涙を流すシーンがあり、それが心に残っていました。
徹底した皮肉屋である主人公が、ルノワールの絵の、モチーフではなく”筆触そのもの”に心を動かされるところにとても興味を覚え、その真意を自分なりに考えていたような気がします。

ラストは、人生に絶望し自殺した隣人の老女の遺灰を、踊るように大地に撒き散らすシーンで終わります。
とってもフランス映画らしい作品で佳作だと思います。


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Fandango  (邦題:「ファンダンゴ」'85米)
 

とてもバカバカしいノリの「青春映画」。でも、私はこの映画が大好きで、自分の中のベスト5に入ってます(笑)。

ベトナム戦争の頃、アメリカの大学を卒業した若者5人のグループが、最後のバカ騒ぎ(ファンダンゴ)をしようと、クルマにのって昔埋めた「聖杯」を堀返しに行くというロードムービー。
自分たちで勝手に「仲間の絆の証・青春の象徴」と定めた"ドム"と名付けたいわば聖杯は、実はただの一瓶のシャンペンなんですが、それを飲み干し谷底に投げ捨てた時のあっけなさが、若さゆえの直情径行や浅薄さを思わせます。
ですがそれが、いまや年取ってしまった自分には、若さゆえの率直さ、貴重なものとして、どこかリリカルに感じてしまうのです。それは、井上靖の詩「海辺」に似た心境かもしれません。
 

卒業すれば徴兵され戦争にいかなければならないという現実を、5人それぞれが違う受け止め方をしている点も面白いし、ラストの結婚式のシーンも夢見るようでいて鮮やか。
反面、結婚式が終わり一気に"祭りの後の寂しさ"に襲われる主人公フィルに仲間の一人ドーマンが駆け寄り握手をするシーン、「Have a nice life.」の別れの言葉が、青春時代にピリオドを打つ瞬間を実感させ、とても印象的です。

ラストシーンは、仲間との別れに戸惑う主人公と離れ、式の会場の灯りが少しずつ消えていく様を高台から一人遠望するリーダー格のガードナーの姿。たぶん彼は、徴兵や自分を取り巻く状況からこれからも逃げ続るのでしょうが、そんな彼の"人間臭さ"にも心惹かれます。

ガードナー役のケビン・コスナーは、この作品で映画デビューしました。